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広島高等裁判所松江支部 昭和32年(ラ)19号 決定

抗告人 福井大也 外一名

相手方 宮脇亮三

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件申立を却下する。

理由

抗告理由は別紙のとおりである。

「立倒木」といえば、通常「立木及伐倒木」を意味するものであるから、この点については明白な誤謬があるとはいえず、したがつてこれを更生する必要はない。そうすると問題は「立倒木」に「(丸太材を含む)」と更正したことが正当であるかどうかに帰着するのでこの点について考えてみる。

本件仮処分命令申請書に依れば「立倒木」とのみ表示してあつて「丸太材」の記載は全然ない。ただ申請の理由中に相手方(仮処分債権者)は申請外谷口幸太郎から立木および伐倒木を買い受け、立札によつて明認方法を施した旨の記載があり、疎第六号証の一、二、四(いずれも写真)によれば、債権者が丸太材に所有権表示の立札を立てていることがうかがわれるので「丸太材」も本件仮処分の目的とするものであることが推察できるのであるけれども、前記の如く、その申請の趣旨および理由中には「立倒木」とのみあつて「丸太材」をも含む趣旨の記載は全然ないのであるから、仮処分決定に前者を表示し、後者の記載を欠いだからといつて、明白な誤謬があるとはいえない。現に更正決定申立書にも、仮処分決定に明白な誤謬があるとはいつておらず、「立倒木ではやや趣旨明確でないため執行につき混乱を生ずるおそれがある」ことを理由としているにすぎないし、原決定もまた右「申立を相当と認め」て更正したもので、明白な誤謬があるとは表示していない。しかし更正決定は書損其の他之に類する明白な誤謬があるときに限りこれをなすべきであつて、表示が明確を欠くからといつて直ちに明白な誤謬があるものとは認められない。それは必ずしも意思と表示の不一致をきたさないからである。しかも「丸太材」といえば既に「伐倒木」ではなく、これに手を加え一定の長さに切断した素材を意味することが通例であるから、右更正決定によれば、仮処分の目的物を追加した結果となり、更正決定の範囲を逸脱するのみならず本件仮処分の申立の範囲をも超えるものであつて違法といわざるをえない。

以上の理由により原決定を取り消し、本件更正決定申立を却下すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 三宅芳郎 藤田哲夫 竹島義郎)

別紙 抗告理由

一、判決の変更、判決の更正決定に関する民訴法第一九三条ノ二同法第一九四条の規定は同法第二〇七条に依り性質に反せざる限り決定及命令に準用せられる、それで昭和三十二年八月十日決定された鳥取地方裁判所昭和三二年(ヨ)第四一号土地立入禁止等仮処分決定に対する本件更正決定は民訴法第一九四条に該当する原決定の違算書損其の他之に類する明自なる誤謬ある場合に限り裁判所は職権に依り又は申立に依り更正決定が出来るのであるが本件の更正決定は(一)数額の違算でもなく(二)原決定正本に書損があつたわけでもなく(三)其の他之に類する明白なる誤謬でもなく全く右に関係のない原仮処分の決定の目的物が立倒木であつたのを之に伐木を加え更に一定の長さに断切りした素材となつた丸太を含むと更正された、かくの如く仮処分の目的物を追加することは右の制限規定の趣旨に違反したものであると信ずる。

二、原決定は昭和三十二年八月十日債権者に送達せられ十四日の期間を徒過すれば其の執行は出来ない(民訴法第七四九条二項同法第七五九条参照の事)ので債権者は昭和三十二年八月十七日午前八時五十分原決定に基き執行に着手して午前十時執行は終了したそれで同月二十四日以後は執行することは如何なる事情があつても原決定に基く執行は法律上出来ないのである。この原決定に対する昭和三十二年九月六日付更正決定は原決定と一体のものであつて独立した別の決定でないから此本件更正決定に基く伐材丸太材に対しては執行が出来ないそれで時期に遅れた更正決定の申立は許すべきでない、この理は民訴法第一九三条ノ二の一項但し書に判決が確定したときは判決の変更を許さぬ旨を定めたことに依つても明白である

右の理由に抗告した次第であるから直に本更正決定は取消を御願いします。

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